2015.05.30
5月の公演「カヴァレリア・ルスティカーナ」
5月に出演する公演は、ヴェリズモ・オペラの傑作、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」です。
「カヴァレリア・ルスティカーナ」とは、「田舎の騎士道」といった意味です。
舞台はシチリア地方の山間の集落。復活祭の時期には、故郷で復活祭を祝うために人々が出稼ぎから帰ってきます。そして皆でミサに集い、お祈りをしたあとは、愛する家族と過ごすのが慣わしでした。
兵役帰りの主人公トゥリッドゥは村娘サントゥッツァと婚約しているものの、かつての恋人ローラと不義の関係にあります。
復活祭の日、サントゥッツァは結婚前にトゥリッドゥの子を身ごもったため、キリスト教の厳格なしきたりに基づき、教会に入ることができません。トゥリッドゥと口論した後、悲しみに打ちひしがれるサントゥッツァは、ローラの夫アルフィオに真実を告げます。
不貞が露見したトゥリッドゥは、アルフィオとの決闘の末、命を落とすことになります。
復活祭でにぎわう村が、一瞬にして惨劇の舞台となり、子供を身ごもったまま後に残されたサントゥッツァの悲劇を象徴するかのように、村人の悲鳴と驚愕の声が鳴り響き、舞台は幕を閉じます。
ヴェリズモ(verismo )とは、19世紀末から20世紀初頭にかけてイタリアで隆盛したリアリズム運動です。
その特徴は、イタリア南部の貧困層の日常を題材として、社会的な不条理を淡々と描いていることです。
「カヴァレリア・ルスティカーナ」はヴェリズモの代表作とされています。
本作は、封建的で因習的な社会体制が未だ色濃く残る、シチリア地方の田舎で起きる決闘沙汰が題材となっているのですが、これを皮肉とか、社会批判として捉えているのではないところに、ある種の潔さを感じます。
題名にあるように、シチリアの片田舎の貧困層の若者に「騎士道」とは いささか大仰というか、時代錯誤的な感は否めませんが、不義密通の罪はともかくとして、名誉のために逃げ隠れせず、誤魔化そうともせず、決闘に臨む主人公トゥリッドゥの覚悟は見事といえましょう。
さて、決闘を決意しながらも、トゥリッドゥには葛藤があります。
妻を寝取られたアルフィオの名誉のために、自分は喉を掻き切られて死んでも良いと思う一方で、子供を身ごもったサントゥッツァのために自分は決して死ぬわけにはいかないという思いが湧いてくるのです。
この主人公の葛藤が、物語に文学的な厚みを加えているといってよいでしょう。
貧困のために兵役に就かねばならず、故郷に帰ってきた時には既に元恋人(ローラ)は裕福な馬車屋(アルフィオ)と結婚していました。その不条理のために主人公(トゥリッドゥ)は一旦は道を踏み外したものの、最後は「道」のために殉じることとなるのです。
話は逸れますが、私は、無神論でありながら道理を弁えた人というのは大いに結構だと思います。
私自身も人智を超えた宇宙の叡智というべきものが存在していてもおかしくはないと考えていますが、人間の都合で歴史的に生み出してきた人間が望むような姿の「神様(GOD)」というのは、実は存在していないのではないかと思っています。
問題なのは、心の奥底では神を認めつつも、良心の呵責に耐え切れずに神を否定する人々です。
それは明らかに自家撞着であるゆえ、神を否定ながら結局は神に代わる「何か」を信奉しているのです。
それはお金や物質的なエネルギーかもしれませんし、何らかのイデオロギーの場合もあるでしょう。自分自身を神と思っている傲慢な人間もいます。
そういった人々に限って、道を踏み外しても平気で、無責任であることが多いのです。
何故ならば、神を否定することによって、良心の呵責から開放されたと勘違いしているからなのです。
一方で、物語のもう一人の主人公であるサントゥッツァは、復活祭であるにもかかわらず、教会に入ることが許されません。
皆と一緒にイエス・キリストの復活を祝うことのできない悲しみは如何ばかりであろうかと想像するのですが、この辺はキリスト教徒でない私たちには文化の違いもあり、なかなか理解しづらい場面ではあります。
ところが、トゥリッドゥと不義を通じていたローラは、サントゥッツァに皮肉を言いながら堂々と教会に入って行くではありませんか。ローラも本来であれば教会に入ることができない身であるにもかかわらずです。
この辺から、キリスト教における罪とは本来内面的なものであるということを窺い知ることができます。
つまり、本来内面的なものであった教えが時代とともに形骸化し、因習的なしきたりへと変化してしまったところに悲劇があったのです。
オペラに出演して面白いと思うのは、歌うことによってその人物の感情を表現するので、比較的感情移入がしやすく、より深く物語を理解することができるということです。
ただし、舞台に対する理解度は、演出家によるところが大きいので、良い舞台に巡り合えた時は、心から演出家の先生に感謝したいと思うのです。
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